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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)249号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証、及び甲第八号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について次のとおり記載されていることが認められる。

(一) 本願考案は、着脱自在なカセツト式の貯水タンクを備えるスチームアイロンに関するもの(本願明細書第一頁第一五行、第一六行)であつて、従来、この種のスチームアイロンでは、アイロン本体はその後部寄りにハンドルを有し、このハンドルの前端面に衝合するように貯水タンクを設けてこれを掛止機構を介してハンドルに掛止し、その解除用の操作体をハンドルの前端側にその一部がハンドルの上面に突出するように設け、ハンドルを握つたまま操作できるようにしているが、右突出部分のため握る範囲が制約され、また通常の使用時にその突出部分が邪魔になりアイロンがけの作業の障害となり、さらに操作体を誤つて操作して貯水タンクを不用意にアイロン本体から脱落させてしまう難点があつた(同頁第一七行ないし第二頁第一四行、及び昭和六一年三月二八日付け手続補正書第二頁第二行ないし第六行)との知見に基づき、ハンドルを何らの制約を受けることなく容易に把持して円滑にアイロンがけの作業を遂行できるとともに、貯水タンクの取外しも容易に行うことができ、かつ操作体の誤操作による貯水タンクの不用意な脱落を確実に防止できるようにしたスチームアイロンを提供すること(本願明細書第二頁末行ないし第三頁第五行、前記補正書第二頁第七行ないし第一〇行)を技術的課題(目的)とするものである。

(二) 本願考案は、前記技術的課題を達成するために、実用新案登録請求の範囲(本願考案の要旨)記載の構成(本願明細書第一頁第五行ないし第一三行)を採用した。

(三) 本願考案は、「操作体の操作部を握り部の上面に形成した操作口にその開口と面一か若しくはその僅かに下方に位置する状態で臨ませたから、ハンドルの握り部を何らの制約や邪魔を受けることなく容易に把持して円滑にアイロンがけの作業を遂行できるとともに、貯水タンクの取外しも容易に行うことができ、かつ操作体の誤操作による貯水タンクの不用意な脱落を確実に防止できるという効果を奏するものである。」(同第八頁第三行ないし第一〇行、前記補正書第三頁第一〇行ないし第一三行)。

2 本願考案と第一引用例のものとは、ハンドルを備えたアイロン本体に貯水タンクを着脱自在に設け、これを掛止機構を介してハンドルに掛止し、その解除用の操作体をハンドルの握り部内に擢動自在に設けて成るスチームアイロンである点で一致し、本願考案では右操作体の上面の操作部を握り部の上面に形成した操作口にその開口と面一か若しくは僅かに下方に位置する状態で臨ませたのに対し、第一引用例のものでは、ハンドルの握り部に設けられた操作体の上面の操作部が握り部の上面から突出しているという点において相違することは、当事者間に争いがない。

原告は、審決は、右相違点について判断するに当たり、第二引用例記載の技術内容を誤認した結果、右相違点における本願考案の構成は、第二引用例記載のものに基づいて当業者が格別困難なく想到できる程度のことであると誤つて判断した旨主張する。

そこで、まず、第二引用例記載の技術内容について検討すると、成立に争いのない甲第七号証によれば、第二引用例記載のものは管状ヘヤードライヤーであつて、別紙図面(三)第1図に示された「ヘヤードライヤー1の外被すなわちハウジングは、本質的に四つの構成部分、すなわち、二つの半円筒グリツプ部2および3、摂取すなわち吸入格子4および排出すなわち吹出し格子5からなつている。吹出し格子5の前には、三位置スライダスイツチ6が設けられており、このスイツチ6を用いて種々の切り換えを行なうことができる。」(第四頁左上欄第三行ないし第一〇行)と記載されており、この記載を参酌してこのヘヤードライヤーの縦断側面図である第2図をみると、符号6で引出された部分<省略>が三位置スライダスイツチ6の操作体であり、この上面の突出部がその操作部であつて、操作部に指を当てこれを同図の左右方向に動かすことにより操作体が擢動する構成であること、三位置スライダスイツチ6の操作部はグリツプ部2、3の厚みの内側面に設けられ、突出部を右グリツプ部2、3の開口より僅かに下方か、少なくとも右開口と面一に位置する状態で臨ませていることが認められる。

この点に関して、原告は、第二引用例の第2図に記載された三位置スライダスイツチ6は突出した部分を矢視しているが、この突出した部分が操作部であり、審決認定の構成を有するものとは認められない旨主張するが、当業者において、第二引用例の第1図及び前記記載事項を参酌して右第2図をみれば、この突出部分が操作部であり、前記認定の構成であることは容易に理解できるところであつて、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、第2図を拡大してグリツプ部2、3の合わせ部と吹出し格子5の外周面又は操作口の上端間に細線を引いた場合、三位置スライダスイツチ6の突出部が面一となることが確認できず、グリツプ部2、3の外周面を三位置スライダスイツチ6の右側に位置する白抜き部の上部として細線を引いた場合、その突出部が上方に突出していることが確認できる旨主張する。

しかしながら、右第2図のような物品の縦断側面図において、物品の厚さが比較的太い線で示されている場合、線の最も外側を物品の外面とみるのが図面の常識的な見方であり、成立に争いのない甲第九号証及び乙第二号証によれば、右第2図を拡大した図面に基づき、この見方に従つて、グリツプ部2、3の上面の最も外側に平行に細線を引くと、右突出部をグリツプ部2、3の上面に形成した操作口にその開口より僅かに下方か、少なくとも面一に位置する状態で臨ませていることが明らかであるから、原告の主張は理由がない。

したがつて、第二引用例には、「スライダスイツチの上面の操作部をグリツプ部の上面に形成した操作口にその開口と面一か若しくは僅かに下方に位置する状態で臨ませた管状ヘヤードライヤー」が記載されているとした審決の認定に誤りはない。

そして、第一引用例のものが、とつてを備えるアイロン本体にタンクを取りはずし可能に設け、これをロツク(本願考案の「掛止機構」に相当する。)を介してとつて(本願考案の「ハンドル」に相当する。)に掛止し、その解除用のロツクツマミ(本願考案の「操作体」に相当する。)をとつてに設けてなるものであつて、前記ロツクツマミはとつての握り部に擢動自在に設けられた構造のものであること、第一引用例のものの更に具体的な構成は「スチームアイロンの取扱説明書」(乙第一号証)記載のとおりであることは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない乙第一号証によれば、右取扱説明書には、「各部の名称」の項に「ロツクツマミ(タンクをはずす時うしろの方へひきます)」(第二頁別紙図面(二)参照)、「タンクの取りはずし方」の項に「ロツクツマミを下方へ十分ひく。ロツクがはずれてタンクが少し浮き上がる。」(第三頁第七行、第八行)と記載されていることが認められるから、第一引用例のものもロツクツマミを後方(スチームアイロンを直立させた時は下方)に十分引かない限りロツクがはずれることがないので貯水タンクが不用意にアイロン本体から脱落することを防止できるとともに、ロツクツマミを操作することによつて貯水タンクを容易に取外しできる構成であり、したがつて、本願考案における前記1(一)認定の技術的課題のうち、貯水タンクの取外しを容易に行うことができ、かつ操作体の誤操作による貯水タンクの不用意な脱落を確実に防止できるという技術的課題は既に第一引用例のものにおいて解決されていることが明らかである。

また、第一引用例のスチームアイロンと第二引用例記載のヘヤードライヤーとは、ともにハンドルを片手で把持しハンドルの握り部に設けた操作体を操作して使用する小型の電気製品であつて、その握り部の構造を改良して使いやすくする点において技術的課題を共通にするものということができるから、第一引用例のスチームアイロンにおいて、ハンドルを何らの制約を受けることなく容易に把持して円滑に使用できるようにするために、ハンドルの握り部に設けられた操作体の上面の操作部が握り部の上面から突出している構成に代えて、第二引用例記載のヘヤードライヤーにおける三位置スライダスイツチ6の上面の操作部をグリツプ部2、3の上面に形成した操作口にその開口と面一か若しくは僅かに下方に位置する状態で臨ませた構成を採用し本願考案を得ることは当業者であればきわめて容易に想到し得るというべきである。

この点に関し、原告は、第二引用例記載のものはヘヤードライヤーであつて、スチームアイロンとは用途機能及び使用方法が全く異なるため、本願考案が解決しようとする技術的課題が存在しない旨主張するが、スチームアイロンにおいて、貯水タンクの取外しの容易と操作体の誤操作による貯水タンクの脱落防止という技術的課題は第一引用例のものが解決していることは前述のとおりであり、また、第二引用例記載のものが三位置スライダスイツチ6の上面の操作部を前記のとおり構成することによつて、握り部を把持して使用するときに何らの制約や邪魔を受けることがなく容易に把持して円滑に使用できることは技術的に自明であるから、第二引用例に右技術的課題に関する明示的な記載がなくとも、当業者であれば第一引用例のものにおいて第二引用例記載の右構成を採用することに格別困難はないというべきであり、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、本願考案の奏する作用効果は、第二引用例の記載事項から予測できるものでない旨主張するが、前記1(三)認定の本願考案の作用効果のうち、<1>ハンドルの握り部を何らの制約や邪魔を受けることなく容易に把持して円滑に作業を遂行できるという点は、第二引用例記載のものの奏する作用効果であり、<2>貯水タンクの取外しを容易に行うことができ、<3>操作体の誤操作による貯水タンクの不用意な脱落を確実に防止できるという点は第一引用例のものの奏する作用効果であつて、右<2>、<3>が前記相違点に係る構成に基づくものでないことは前述したところから明らかである。

原告は、第一引用例のもののようないわゆる自立式のアイロンと本願考案のような水平状態のままタンクを取り外すアイロンとは方式を異にする旨主張するが、本願考案の前記実用新案登録請求の範囲には本願考案におけるスチームアイロンを原告主張のものに限定する記載はなく、原告の右主張は本願考案の要旨に基づかないものであつて理由がない。

したがつて、前記相違点における本願考案の構成は、第二引用例記載のものに基づいて当業者が格別困難なく想到できる程度のことであるとした審決の判断に誤りはない。

3 以上のとおりであつて、本願考案と第一引用例のものとの相違点についてした審決の判断に誤りはなく、本願考案は第一引用例のもの及び第二引用例記載のものに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたというべきであるから、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願考案の要旨は左のとおりである。

ハンドルを備えるアイロン本体に貯水タンクを着脱自在に設け、これを掛止機構を介してハンドルに掛止し、その解除用の操作体をハンドルに設けて成るものにおいて、前記操作体はハンドルの握り部内に擢動自在に設け、この操作体の上面の操作部を、前記握り部の上面に形成した操作口にその開口と面一か若しくは僅かに下方に位置する状態で臨ませたことを特徴とするスチームアイロン

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